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東京高等裁判所 平成7年(ネ)3560号 判決 1996年3月13日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人らとの間において、原判決別紙目録(二)記載の供託金について控訴人が還付請求権を有することを確認する。

3  被控訴人株式会社藤商、同有限会社コーラルの反訴請求をいずれも棄却する。

4  控訴費用は、本訴反訴を通じ、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり改めるほかは、原判決事実摘示(事実及び理由欄「第二 事案の概要」)記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決五枚目表九行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(七) ところで、本件譲渡通知はそれ自体独立して詐害行為取消の対象とならないものである。債権譲渡における譲渡通知は、指名債権譲渡の対抗要件を具備することを目的とする観念の通知に過ぎない。したがって、債権譲渡につき詐害行為の成否を問題にする場合は、法律行為たる債権譲渡行為自体についてその要件の存否を判断すべきであって、単に対抗要件具備手続に過ぎない譲渡通知を判断の対象にすべきではない。不動産譲渡の対抗要件たる登記自体について詐害行為は成立しないとされている点を想起すべきである。

(八) 仮に、百歩を譲って、債権譲渡通知が詐害行為取消の対象となり得るとしても、本件においては、債権譲渡人である若林製本所が、被控訴人らの債権が成立する以前であり、かつ、未だ無資力となっていない平成五年一二月一日に、控訴人に対し、貸金債務の担保として、廣川書店に対して現に有し、もしくは将来取得する売掛債権全部を、右貸金債務の不履行を停止条件として譲渡したものであって、その際、条件が成就した場合には、予め若林製本所から作成交付を受けた債権譲渡兼譲受通知書を控訴人が同製本所と連名で廣川書店に送付することに合意したのであるから、本件譲渡通知を行った同製本所に詐害行為が存したか否か、あるいは詐害の意思が存したか否かは、右譲渡通知書を郵便に付した平成五年一二月二一日ではなく、若林製本所が右通知書を控訴人に作成交付した同年一二月一日を基準日として判断されるべきである。」

第三  証拠(省略)

第四  当裁判所の判断

当裁判所も、若林製本所と控訴人間の債権譲渡契約が有効に成立したものと認めるが、本件譲渡通知は詐害行為に該当し、取り消されるべきであるから、被控訴人らの反訴請求は理由があり、前記債権譲渡契約に基づき原判決別紙目録(二)記載の供託金還付請求権の確認を求める控訴人の本訴請求は理由がないものと認める。

その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の理由説示(事実及び理由欄「第三 争点に対する判断」)記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七枚目表八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(一) 控訴人は、債権譲渡通知は詐害行為取消の対象とならないと主張するので検討するに、詐害行為取消の対象となるのは債権者を害する法律行為であるが、債権者の責任財産を保全する制度の趣旨から、法律行為に限ることなく、責任財産を減少させる法律効果を伴う債務者の行為である限り、債権譲渡の通知、時効中断事由たる債務承認、追認などの準法律行為についても民法四二四条を準用すべきである。

不動産譲渡の対抗要件たる登記自体については、詐害行為が成立しないとされているが、これは登記申請行為が行政庁に対し一定の内容の行政行為を求める公法行為の色彩が強く、私法上も不動産上の権利又は権利変動について第三者に対する対抗要件を具備させる側面を有するに過ぎないものであることによる。これに対し、債権譲渡における債務者に対する通知は純然たる私法行為である上、債務者に対する関係では、債務者のする承諾と共に、債権者の変更を債務者に主張し得る必須の要件となるものであって、これによってはじめて当該債権が譲渡人の責任財産から確定的に逸出することになるという意味において、第三者に対する関係で対抗要件を具備することになる以上の機能を持つものである。このように、登記と債権譲渡通知はその性質において異なるものがあるから、登記に関し詐害行為該当性が否定されるとしても、債権譲渡通知に関し前記の結論をとることの妨げにはならない。」

二  同七枚目表九行目冒頭の「(一)」を「(二)」に、同枚目裏四行目冒頭の「(二)」を「(三)」に、同八枚目表七行目冒頭の「(三)」を「(四)」に、同枚目裏九行目冒頭の「(四)」を「(五)」に、それぞれ改める。

三  同八枚目裏八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件譲渡通知につき、詐害行為の成否を判断するに当たっては、控訴人が譲渡通知書を郵便に付した平成五年一二月二一日でなく、若林製本所が控訴人に譲渡通知書を作成交付した同年一二月一日を基準に要件の存否を判断すべきであると主張するが、若林製本所が譲渡通知書を控訴人に託した行為は、譲渡通知を控訴人に委任(準委任)したものと解し得るので、詐害行為の成否は、通知を受任した控訴人が若林製本所の代理人として現に通知書を郵便に付した同年一二月二一日を基準として判断するのが相当である。」

第五  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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